第三部 大正編 ~平穏無事~ 大正初年~大正15年

39.大正の御大礼

大正4年11月、京都で御大礼が執り行われました。18ヶ国から特派使節が参列しますので、その宿所探しが始まりました。当時は、外国人用のホテルとしては「京都ホテル」と「都ホテル」があるだけでした。しかし、「都ホテル」は三条通りが狭く、自動車や馬車の出入りが困難なため、今回は対象から外されました。結局、「京都ホテル」のほか、村井別邸の長楽館、京都商工会議所の3ヶ所に分宿することに決まり、つぎのように割り当てられました。

京都ホテル
アメリカ フランス ブラジル スペイン スエーデン スイス シャム デンマーク 中国 オランダ ノルエイ アルゼンチン ポルトガル トルコ ベルギー チリ
長楽館
ロシア イタリア
京都商工会議所
イギリス

「京都ホテル」は各国大使の受け入れに備えて、内外の大改修を行い、すっかり見違えるようになりました。そのものものしさを、「締盟各国国賓旅館調査」はつぎのように記録しています。

「締盟各国国賓旅館調査」

一、大礼前後に亘り、即チ十一月一日ヨリ同月廿日迄新旧洋館及日本館全部ヲ使用スルニ決シ、之レガ設備トシテ先ツ新旧館共室ノ内外共大修理ヲ加フルコトトナリ、八月廿日工事ニ着手シ外部ハ漆喰及ペンキ塗替ヘ、内部ハ四壁及天井共「リサイド」塗リ、木部ハ都テ「ペンキ」及「ワニス」塗替へ、暖炉、浴 室、便所、ソノ他ニモ修理ヲ施シ、十月廿日竣工、建物全体ヲシテ殆ンド面目ヲ一新セシタリ

一、内外ノ電灯ヲ増設シ、室内差込「スイッチ」ハ一室ニ付三個以上取ケ、「スタンド」用ニ具ヘ尚ホ点消「スイッチ」ハ入口脇及寝台脇ニ設ケテ点消ノ自由便利ニ供セリ。

一、新館玄関ニハ鉄骨持出シ庇ヲケテ車寄ノ便ヲ計リ正門ハ在来ノモノハ撤去シテ更ニ大門柱ヲ建設シ幅内法ヲ広カラシメ庭園ノ配置ヲ変更シテ通路ヲ拡張シ儀装車及自動車ノ運用ニ便ナラシメメタリ。

一、室内ノ設備ハ甲号、乙号ノ二種ト為シ、甲号ハ大使使節ノ室トシ、乙号ハ公使使節ノ室トシ、凡テノ設備装飾ノ品位ヲ区別シ、甲号ニ充テタル寝室及「サロン」ハ四壁小石織布ニテ壁張リ、窓掛、敷物、寝台、化粧台、洋服棚、安楽椅子、小椅子、デスク、卓子、洗面台等都テ新調設備タリ。乙号ニ充テタル寝室及「サロン」ハ四壁「リサイド」塗り、窓掛、敷物、ソノ他ノ設備装飾モ殆ンド甲号ト大差ナキモ少シク下位ノ設備ニ在リ。

一、各廊下通及各階段共絨緞ヲ以テ敷詰メタリ。

一、接伴官詰所ハ客室間ニ介在シテ便宜ノ室ヲ充当シタリ。

一、日本館ハ修理ヲ加ヘズ、接伴官ノ随行員及護衛警官ノ宿泊ニ充当シタリ。

一、旧館三階各室ハ別ニ設備ヲ加ヘズ「ホテル」客室従来ノ侭ニテ、使節及随行員、従者ノ宿泊ニ充当シタリ。

食堂ボーイはわざわざ神戸から熟練したもの20名を呼び寄せ、客室係の女子もまた、十分に経験があって、しかも品性・容貌ともにすぐれた者を選びました。コックも優秀な者がそろいました。
式典の当日は、各国大使・公使が盛装して、日本側の接伴員とともにホテルの庭で記念撮影を行いました。立派なアルバムになって保存されています。

御大礼

大正天皇の即位式は11月10日、京都御所紫宸殿で行われた。御大礼を記念する各種の催しや事業が京都府・市によって行われているが、現在の京都府立植物園もその記念事業のひとつとして建てられたもの(大正13年開園)。当初は記念博覧会を開くつもりで土地が買い上げられたという。

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