第五部 昭和戦後編 ~感慨無量~ 昭和21年~昭和63年

67.グルメ宅配

「京都ホテル」はみなさんに親しまれるホテルでありたいと願っています。そのために、ホテル自体の機能を充実してみなさまのご利用をお待ちするのは当然のことですが、より積極的に「京都ホテル」の自慢の味を披露しようと、街頭への進出をはかりました。

昭和39年から平成5年にかけて、河原町四条の高島屋に直営のレストラン「ローズルーム」を営業しました。これが、その手はじめであったといえましょう。
オープン当時は、まだ、西洋料理はマナーが面倒とか、ホテルの食堂は正装して行く堅苦しいところとか、お料理の値段も張るところなど、日本人には敬遠されがちな時代でした。
場所は2階の貴金属売り場の奥で、気がつかれずに通り過ぎてしまうきらいもありましたが、お買い物ついでにちょっと優雅な気分にもひたれるところから、ご常連も生まれました。

第2弾は『ホテルの味覚売ります』と新聞でも紹介されました新商法です。

…昭和47年1月31日 「京都新聞」より…

結婚式から海外旅行まで−−−と、経営の多角化が進められているホテル界に新商売が、またひとつ登場した。中京区河原町御池の京都ホテルがこのほど始めた「ホテルの味覚売ります」。関西では同ホテルがはじめてで、関東では帝国ホテルが手がけているもののホテルの味が家庭に持ち帰って味わえるとあって、なかなか人気を呼んでいる。

チキンパイ、グラタン、ホテル風コロッケ、ハンバーグ、カレー、ソース、ドレッシング…。同ホテル内に新設されたフードストアには、30種類のホテル料理がずらり、いずれもパッケイジ納めで、味はホテルの食堂で食べるのもと全く同じ。しかも値段はチキンパイ800円、ホテル風コロッケ100円、グラタン300円とウェートレスの人件費などを差し引き、ぐんと格安になっている。

なかでも人気を集めているのはコロッケ、ハンバーグ、グラタン、ソース類など。東京から来たという中年婦人は「ホテルの味が家庭で味わえるなんてすばらしいわ。子供のおみやげに……」とコロッケ、チキンパイ、グラタンなど、ごっそり求めていた。

このホテルのニューセールについて、担当の直販課長は「ホテル料理を家庭で一般のみなさんに楽しんでいただくのが大きな目的」とズバリ。”味覚”の大衆性を強調する。つまり一部のホテル利用者だけでなく、広く一般にもホテル独自の味覚を”開放”しようというのがねらい。これまでパン・ケーキ類などのホテル製品は、百貨店などを通じて売り出されていたが、料理の直販は初めての試みだけに地元のホテル業界でも注目されているという。

じつは、そのころから外国からの観光客が頭打ちになり出していました。特に京都のような観光地のホテルや旅館は、春と秋の観光シーズンは満室になりますが、シーズンオフはチラホラというのが泣きどころです。京都市が、冬の旅、夏の旅と銘打って、社寺の文化財特別拝観などで観光客誘致に努めていますのも、年間を通じて観光客を招きたい、との願いが秘められています。

そのころ日本のホテル業界にも、この際外国の人よりも日本人にウェイトをおいた経営方針をとるべきだとする意見も出始めていました。ホテルのシーズンオフ対策として、夏は屋上のビアガーデン、大文字送り火の観賞会など、そして冬は人気歌手とともに楽しいひとときをと、豪華なクリスマスのディナーショーなどが計画されるようになりました。
これがだんだんと定着しますと、つぎは、お正月をホテルで迎えるハイカラなご家庭も増えましたので、「京都ホテル」ではお餅つきでお客様をおもてなしするなど、趣向を凝らしました。餅つきは昭和47年から始まっています。
大学受験生がご両親ともどもホテルに宿泊するのが流行し始めたのも、そのころからです。
昭和50年に入りますと、ホテルがサラリーマンを対象に、ランチメニューでも競争するようになります。

「京都ホテル」の街頭進出第3弾は、京都府立体育館のランチルームで昭和41年です。そして昭和55年から、京都市周辺につぎつぎと建つニュータウンに「京都ホテル」のコーナーを設けて、レストランあるいはホテルの味をご家庭で楽しんでいただける、総菜売り場を設けるようになりました。

昭和59年になりますと、食料品を電話で申し込みできる、『コロッケ1個でも自宅に届けます』というホテルの味の宅配が始まりました。会員制で、北区・左京区で始めましたが、全国でも珍しい試みでした。当時「京都ホテル」には、直営の外販店舗が8店、委託販売店が6店ありましたので、これらの店に毎日コロッケやカツなどを配達する配送車を持っていました。その車を有効に利用したのです。

さらにサービスが進みますと、お正月のおせち料理の予約受け付けから、次には、お誕生日会などのホームパーティや会社でのクリスマスパーティなどにも、ホテルがお料理一切から食器類まで貸してくれたり、あるいはコックさんが出張して目の前で調理したり、パーティの演出を考えてくれたりする大サービスまでが始まりました。いわば、シェフの出前というところです。「京都ホテル」では、20種くらいのパーティセットを用意してパンフレットでPRしていました。

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